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◆Date:2005年07月
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青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』

  • 2005/07/30(土) 15:00:33

四十日と四十夜のメルヘン
青木 淳悟
青木淳悟/四十日と四十夜のメルヘン高橋源一郎氏がasahi.comの「Bookコーナー」 で書いていたこの書評を読んだのがきっかけで読んでみようと思った作品。
高橋氏がこの中で

ふつうの小説は、あらすじを間違えずに説明できるのに、この小説では、説明しようとすると、必ず間違う。

と書いていて、実はそこに惹かれて読み始めたんだけど… ホントにその通りで何を書こうとしているのかさっぱり判らない作品だった^^;

要はチラシの裏に7月4日から7月7日までの4日間の日記を繰り返し書いている「わたし」の物語なんだけど… 前後の脈絡がなく色んなところに話が飛ぶし、書いてあることに意味があるのかないのかも判らないし、オチがあるわけでもないし、 もちろん密室殺人事件が起きて捜査して謎解きをするわけでもなく。
ただただ4日間の「わたし」の日常が繰り返し描かれるだけ。

普段あまりこういうタイプの小説を読むことがないせいか咀嚼力がついていかなくて「何が何やら」という感想しかないんだけど、 その割に読み続けることは特に苦痛ではなかったというのも逆に印象的だった。
文章一つ一つは全然難解じゃないんだけど、それを組み合わせると不思議な世界が出現しちゃうんだなあ。

「わたし」がチラシの裏に書く童話(そのタイトルが「チラシ」(笑))がいきなり途中でプッツリ終わるのもスゴイ。

高橋氏も書いているように、確かにここには「人生」が描かれている…のかも。

第33回新潮新人賞受賞の表題作の他、「クレーターのほとりで」を収録。

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浅田次郎『天切り松闇がたり 第四巻 昭和侠盗伝』

  • 2005/07/26(火) 14:56:38

天切り松闇がたり (第4巻)
浅田 次郎
浅田次郎/天切り松闇がたり 第四巻 昭和侠盗伝お馴染み「天切り松」こと松蔵とっつぁんの闇語りシリーズ第四弾。

相変わらず上手い。
外連見たっぷりの導入部から、設定、登場人物、泣かせどころ、決めゼリフ、そしてオチまで熟練の名人芸のような流れにほれぼれしてしまう。
…と言いながらも、以前のようにどっぷりとその世界に浸かってボロボロ泣くことはないのも事実。 

これは私の期待が大きすぎるのか、作品が安定しすぎているのか、はたまた設定された時代(昭和初期)の持つ重苦しさのゆえか…。
多分その全てなんだろうな。
面白い作品なのにこんなふうにしか感じられないのがクヤシイし、作品に対して申し訳なく思ってしまう。
最初に読んだときの感動が懐かしい。

表題作の他「日輪の刺客」「惜別の譜」「王妃のワルツ」「尾張町暮色」の5編を収録。

「惜別の譜」のラストと、「尾張町暮色」 でおこん姐さんが商売道具である指がなまらないように夜中に指先を砥石で研ぐシーンが印象的だった。

澤木喬『いざ言問はむ都鳥』

  • 2005/07/24(日) 14:51:26

いざ言問はむ都鳥
沢木 喬
澤木喬/いざ言問はむ都鳥沢木敬。
大学の植物分類学の助教授。
趣味はアマチュア・オーケストラでバイオリンを弾くこと。
彼の身のまわりで1年間に起きた幾つかの不思議な事件をまとめた短篇連作ミステリー。
表題作を始め「ゆく水にかずかくよりもはかなきは」「飛び立ちかねつ鳥にしあれば」「むすびし水のこほれるを」の4編を収録。


植物とか音楽とか、その作品を構成する要素は決して嫌いじゃなくむしろとても興味のあることだし、 それを表現する文章もとても丁寧できれいに書かれた作品だった。
でも残念ながら印象は今ひとつ。
何故かというと全体的な雰囲気と、 その中で起こる事件の持つ<性質>のバランスがどうにもしっくりこなくて何となく納得がいかないまま読了してしまったから。

植物や音楽を扱っているだけあって全体的には「静か」とか「柔らかい」といった印象なんだけど、事件(謎)は (ミステリーなのでネタバレは止めておくけど)なんだかどれも結構きな臭い話ばかりだったんだよね。
もちろん、何が起こるのもフィクションなんだからアリだと思うけど、 こんな柔らかい雰囲気の作品の中で起こるならもうちょっと日常的で何気ない事件でも良かったんじゃないのかという違和感が強く残った。
しかも探偵役で沢木の友人の樋口の謎解きの仕方が今ひとつスマートじゃないというか回りくどすぎるし、中にはそれは単なる妄想では? としか感じられないのもあったのもちょっと…。
特に最後の「むすびし水のこほれるを」では、導き出される謎自体も現実感なさ過ぎで「はあ?」って感じだし、もしそれが本当だとしたら 「そこまで準備するような人たちがそんな判りやすい痕跡を残していくことはあり得ないのでは?」と普通に思ってしまうけどなあ。

事件以外の部分、植物や周囲の人物についての沢木の観察眼や、個性的な登場人物達の描写、 それぞれが別々の事件のように見えながら少しずつお互いに作用しあっていく構成などは上手く出来ていただけに残念。

三浦しをん『ロマンス小説の七日間』

  • 2005/07/18(月) 14:41:05

ロマンス小説の七日間
三浦 しをん
三浦しをん/ロマンス小説の七日間あかりは28歳、仕事は海外のロマンス小説の翻訳、5年前に知り合った恋人の神名(かんな) と半同棲中だがまだ結婚するつもりはない。
依頼された小説の翻訳に行き詰まっていた夏の日、帰宅した神名の口から突然出てきた「会社辞めてきた」 の言葉にあかりは思いがけず激しく動揺する。
更に2人の交際にいい顔をしない父親に怪我を理由に実家に呼び戻されるし、 行きつけの飲み屋で顔馴染みの女の子は神名に気がある様子… 。
思ったようにならない状況に苛立ちながら翻訳を進めるあかりの原稿はいつしか原作を離れ創作の世界へと入っていく…。


文庫の裏表紙のあらすじを読んで現代が舞台だと思って読み始めたのに、いきなり「美貌の女領主」とか「騎士」とか「国王」 とかが出てくる物語が始まって、「あれ?こういう話だったの?」とちょっとビックリ。
そして、それが20ページくらい続いた後に、急に現代に戻って本編が始まってまたビックリ。

つまりこの小説は、あかりが翻訳している中世ヨーロッパのロマンス小説と、 現実のあかりと神名の2人の物語という2組の恋人達の物語が同時進行するという構成になっているのです。

この本、昨日感想を書いた「マリア-ブランデンブルクの真珠」の直後に読んだんだけど、この順で読んで良かった。
もしこっちを先に読んでたら「マリア~」を読みながら、変なところで笑ってしまって集中出来なかったかも(笑)
特に、一般的な「ロマンス小説」の概要をまとめたくだり(p27)なんか、「全ての作品の要約はこれでOKなのでは?」と思える完璧さ。
「マリア~」もまあ、9割方こんな感じの作品だったな(笑)
逆に言うと「マリア~」を読んでいたからこそ「ああ、なるほど」と納得出来る内容もあって、 単なる偶然なんだけど我ながらいい選択だったと思う。
(自画自賛(笑))

と言っても誤解しないで頂きたいのは、この作品は別に「ロマンス小説」をバカにした作品では全くないというところ。
中世ヨーロッパを舞台にした「女領主と騎士」の物語もただの飾りで出てくるわけではなく、現実のあかりと神名の関係や状況、 あかりの心情の変化に対応するように挿入され、その中で丸々一つの物語がきちんと完結しているし、しかも「ロマンス小説」 として読んでもなかなか読ませる作品となっている。
これは単にバカにして書いたのでは出来ない技だと思う。

この著者の作品は今回初めて読んだんだけど、軽快な文章でとても読みやすかった。
(他の作品は判らないけど)この作品の特徴はやはりその文体。
あかりと神名のパートでは終始あかり視点で話が進むんだけど、 その中にあかりの喋り言葉で進む部分と普通の一人称の文体が混在していてこれがすごく効果的だった。
喋り言葉の部分で主役であるあかりの思考回路にシンクロして一気に物語に引き込まれるけど、 他の登場人物が出てくるのと同時に普通の一人称文体に変化してちょっと引いた目線での描写になる。
その切り替えがすごく自然で巧かったな。

それから、神名の性格やくせを表現する場面でのエピソードの選び方も良かった。
ケンカした後窓の外でずっと待ってる場面とか、台風の日に行こうと思ったっていうところとか。
特に食事の仕方のところと、冷蔵庫の中の食料のエピソードはちょっと吉本ばなな風な雰囲気もあって私は好きだった。
神名、いいヤツだ。私もこういうタイプに弱いかも。
しかし、問題も多いのでこういう男と付き合うのは難しいね(笑)

ということで「中世ヨーロッパ ロマンス小説」と「当世恋愛小説」を同時に楽しめる『一粒で二度美味しい』(古ッ!(笑)) お得で楽しい作品でありました。

榛名しおり『マリア-ブランデンブルクの真珠』

  • 2005/07/17(日) 14:36:17

マリア―ブランデンブルクの真珠
榛名 しおり
榛名しおり/マリア-ブランデンブルクの真珠十七世紀半ば。
現在ドイツと呼ばれる地方は300余りの独立国家が割拠し、強い緊張関係の中で危機の時代を過ごしていた。
その中の一つで強国として周囲に恐れられているブランデンブルクの先鋭部隊ががエルベ河のほとりの小国ハルバーシュタット公国に攻め込んだ。
陣頭で指揮を執るのは若き選帝候 フリードリヒ=ウィルヘルム。
そして今まさに落ちようとしているハルバーシュタットの古城で、宰相の娘 マリアは公爵令嬢の身代わりとして城に残ることを決意する…。


中世ヨーロッパを舞台にした、いわゆるロマンス小説でございました。
しかもフリードリヒは28歳、かたやマリアは14歳…いや、いいんですが^^;

何となく表紙が気にいって買ったものの基本的に「恋愛小説」は苦手なのでホントに読めるのかな~?とちょっと心配だったのですが、読み始めたら意外に面白かったです。
前半延々と2人の話なので「ああ、もうお腹いっぱいです」と思い始めたくらいから、急に状況が変わって闘いが始まり城が落とされマリアは深手を負って…という波乱の展開になって、最後意外なところに落ち着いて「あら、このまま終わるのかしら?」と思わせておいて、ラストでまたちょっとしたどんでん返しが待っている…という緩急がある構成で結構スルスルと読了しました。

まあ、何と言ってもフリードリヒでしょう。
有能で、勇敢で、腕が立って、頭が良くて、人柄が善くて、(老若を問わず)部下に信頼されていて、男前で、女性関係にだらしないのが玉に瑕だけどそれもまた過去の哀しい思い出を紛らわすためという実は寂しい心の持ち主で同じ傷を持ったマリアに会って初めて本当の愛に気付く… 。
いやいや…カッコ良すぎて何も言うことはございません(笑)
でも、こういうテーマの場合いかに主役を魅力的に描くかが成功の鍵だと思うので、格好良く書いたヒーローがその通りに読者のところに届くのはいいことだと思いますよ。
特に彼の場合、ただカッコイイって説明があるだけではなくて、何気ない言葉や行動の端々にもそれが表現されていたのでかなり感情移入して読むことが出来ました。
まあ、確かにこんなヤツが傍にいたら恋に落ちるしかないでしょう、という設定のヒーロー像でしたね(笑)

で、一方若い恋人のマリアちゃんなんですが…私はちょっと気に入らないんですよねえ。
と言っても「子供のクセに生意気!」ってことではなくて(笑)、 話が進むに連れて彼女の設定が微妙に変わってしまったのが何となく納得行かない。

マリアはハルバーシュタット公国の宰相 クレプトの娘なのですが、母親はクレプト家の使用人なのでいわゆる「深窓の令嬢」 といった育てられ方はされず剣の訓練を受けていたり父親から「もしもの時には公爵令嬢の身代わりになれ」と申し渡されていたりしている設定なのです。
で、初めてフリードリヒと相対する彼の寝室で、彼の隙を襲って短剣を奪い彼に斬りかかる。
そのマリアをフリードリヒは、

右に左に短剣を持ちかえて、鳥のように身軽に打ってくるマリアの技はフリードリヒをまったく驚嘆させていた。 下半身が安定している。 先ほど見た、少女にしては鍛えられた脚は、まさにこの訓練の賜物だったのだ。
「公爵令嬢が聞いてあきれる」
女性でなくとも、これほどの使い手を見たのはひさびさだった。

と賞賛しています。
ただ、百戦錬磨のフリードリヒの前ではマリアの抵抗もここまでで、その後組み伏せられ無理矢理身体を奪われてしまう。
その後、いろいろ紆余曲折があり2人はお互いに運命の相手として惹かれていき…という(ありがちな)展開になっていくわけです。

私はこの出会いの場面でフリードリヒがマリアを「他の女性とは違う」と認識したのは彼女のの精神的、肉体的な強さ (とその奥に隠された弱さ、 哀しみ)だったと思ったのですが、 その後フリードリヒとマリアがお互いを受け入れていく過程の中でその強さが急激に失われてしまい単に弱々しくて幼い女の子にしか見えなくなってしまったことにとても違和感を感じました。
後半は大怪我を負いながら城を落ち延びて一人命がけで逃げていくわけだけど、それも冒頭のように自分で運命を選び取るのではなく状況に押し流されていくだけのように見えて…。

何となくフリードリヒに会う前のマリアの方が、マリアらしかったのでは?と思わずにはいられない描写が多くみられました。
そうなるとフリードリヒはマリアの何が好きだったのかと。
また、フリードリヒを愛することでマリアがそう変化したのだとすれば、フリードリヒの愛し方は本当にそれでよかったのかと… そんなことを考えながら読んでいたのでした。

ある意味「源氏物語」みたいなお話ですね。
きれいでテンポのいい文章だし読後感は悪くないので、こういう設定が嫌いでなければ楽しめるのではないでしょうか。


読み終わった後で「フリードリヒって実在の人物かな~?」と思って検索してみたら、出てきたのが このページ
ひゃ~…見つけたのが読み終わってからで良かった~…^^;
これから読もうと思っている方は決して読む前に見ないで下さい。


<関連サイト>
「榛名しおり Official Website」

上野正彦『「藪の中」の死体』

  • 2005/07/16(土) 07:19:53

「藪の中」の死体
上野 正彦
上野正彦/「藪の中」の死体文学作品や過去の未解決事件の死体についての記述を元に日本法医学の第一人者として著名な著者が死因や隠された犯人像を推理する。
取り上げられるのは芥川龍之介『藪の中』、ポー『マリー・ロジェエの怪事件』、谷崎潤一郎『鍵』など。


面白かった!

何より「小説に出てくる死体を現実の法医学的視点から見る」という発想が面白い。
時々タイトルでは「○○を暴く!」なんて惹句を付けながらも読んでみると回りくどい話が延々と続いているだけで結局何も判らなかった… というような本もあるけどこれはちゃんと科学的な論拠に基づいて犯人像を推理した結果を提示してくれている。
(もちろんそれがその作品の著者が意図した結果通りであるかどうかは判らないわけだけど)
で、更にその結果を丁寧だけど、しつこくなりすぎずに解説してくれる上野氏の文章が判りやすく読みやすいのもよかった。

特にタイトルにも使われているだけあって『藪の中』についての考察は、 それぞれの登場人物が語る死体や周囲の状況を細かく検証した上で法医学の見地から犯人を特定するだけでなく、犯人ではないにも関わらず 「自分がやった」と名乗り出ている登場人物の心理状態も読み解くという力作。
これを読んでからオリジナルを読み直すと新たな視点で読むことが出来るんじゃないかな。

よくTVドラマで法医学が取り上げられるときに出てくる「生きている人間は嘘をつくけど、死体は嘘をつかない」 という言葉がこの本の中にも出てきた。
どんなに死因をごまかそうとしても、ちゃんとした法医学者が検死をすればその死因は間違いなく特定できる、とのこと。
ただ、明らかに殺人であると判断された以外のケースで死因に不審がある場合に行政解剖が出来る制度は現在日本国内で東京23区内、横浜、 名古屋、大阪、神戸の5大都市でしか実施されていないらしい。
死者の権利、主張を正しく理解し擁護するために必要な制度だと思うので、全国に導入されるようになってほしいものである。
(使わずに済めばそれに越したことはないわけだが)

その他、「水死した死体は口や鼻から細かい泡が出ている」とか 「焼死体は肘や膝の筋肉が熱で凝固するため身体が屈曲してボクサースタイルになる」とか、 普通の一般市民として暮らしていくのに全く必要のない知識(笑)も満載で読みどころたっぷりの一冊でした。

森福都『吃逆(きつぎゃく)』

  • 2005/07/14(木) 07:14:39

吃逆
森福 都
森福都/吃逆(きつぎゃく)三十歳になってようやく科挙の試験に合格した陸文挙。
合格はしたものの二百七十四番という下位であったため職に就けるのはまだまだ先で相変わらず貧しい生活を続けていた。
そんな陸には吃逆(きつぎゃく=しゃっくり)をすると白昼夢のような奇妙な光景が見えたり、 思いもかけないことが閃いたりするという不思議な癖があった。
その癖を見込んだ役者ばりの美男で口の上手い周季和と名乗る人物から突然副業を持ちかけられる。
それは季和がこれから発行する「話小報」という新聞専任の探偵役だった。

連作短篇ミステリー。
「綵楼歓門」「紅蓮夫人」「鬼市子」の3編を収録。


前に読んだ 『十八面の骰子(さいころ)』が面白かったので、「他のも」と思って読んでみたんだけど…残念ながらこれは今ひとつ。

やっぱり中心となる陸文挙と周季和の2人の魅力がが『十八面~』に出てきた3人ほどではなかった、というのが大きいかな。

「しゃっくりをすると人には見えないものが見えて、それをヒントに謎を解く」という陸の設定は面白いんだけど、それが最初の 「綵楼歓門」以外の作品ではあまり生かされていなかったのが何より残念。
また生い立ちに秘密を持っていることから来る季和の不安定さも「魅力的」な感じには映らなくて、 逆に何度も繰り返されることでこっちが不安になる(というかちょっと苛々する)感じの揺れ方だったのが読んでいてちょっとつらかった。
その秘密の謎解きもちょっと引っ張りすぎな感じがしたなあ。

季和の不安定さの原因の一端となっているのが開封府の知事であり季和の生き別れの父でもある劉公という人物。
物語の中ではどちらかというと脇役的な存在であるけれど彼の度量の大きさや有能さ、その中に隠れる無邪気さ、そして別れた妻や子 (つまり季和母子)への深い愛情など人間的な魅力がたくさんある印象的な人物で、 私はとても好きだった。
なので、もっと早く誤解を晴らして、季和と劉公が別の関係を作りながら物語が進む方向に転換していたら雰囲気も違っていたのでは… と思うのだけど。
(多分私はそっちのほうが好きだったと思う)

終わり方には希望があったものの全体的に少々暗めな印象の作品で、期待していたものと違ってちょっとガッカリでした。

法月綸太郎『法月綸太郎の功績』

  • 2005/07/11(月) 07:10:01

法月綸太郎の功績
法月 綸太郎
法月綸太郎/法月綸太郎の功績著者と同姓同名の推理作家 法月綸太郎が謎を解くミステリー短篇集。
『イコールYの悲劇』『中国蝸牛の謎』『都市伝説パズル』『ABCD包囲網』『縊心伝心』の5編を収録。


収録作5作のうち3作(『イコールY~』『中国蝸牛~』『ABCD~』)は既読でした(笑)
ミステリー短篇のアンソロジーを読むのが結構好きなので、その中に入っていることが多いみたいですね。

と言っても『中国蝸牛~』はついこの間読んだ『透明な貴婦人の謎』に載っていた作品なのでさすがに憶えていたけど、 それ以外の2作は結末を完璧に忘れていたのではじめて読むかのように楽しめたのですが(笑)
しかも『イコールY~』に至っては読み始めてしばらく経つまで一度読んだことがあると気が付かなかったと言う…!
ビックリの鳥頭ですね^^;

そんな鳥頭の私にもちゃ~んと判るように犯人像や状況、設定が丁寧だけど無駄のない会話の中で説明されて、多少迂回しながらも (この間の取り方がまた上手い!)徐々に真実に近づいて行く手際がとても巧くて楽しんで読めました。

他の登場人物がいる物語ももちろん面白かったのですが、倫太郎と彼の父親である法月警視が深夜2人だけで事件について語り合う 『縊心伝心』の雰囲気がとても良かった。

もはやだれも裁かれることなく、罰せられることもない。忘れられた世間の片隅で、ひとつひとつ解き明かされる、無償の謎-それはそれで、 心躍る毎日ではないか。
(p383より)

ロジックだけでなくこういう情緒的な雰囲気を違和感なくサラッと挟めるところが好きです。

森福都『十八面の骰子(さいころ)』

  • 2005/07/10(日) 07:06:34

十八面の骰子
森福 都
森福都/十八面の骰子(さいころ)中国・宋の時代。
25歳なのに小柄で童顔なため15歳くらいにしか見られないが実は皇帝の名代として地方役人の不正を暴く「巡按御史(じゅんあんぎょし)」 であり各地で謎解き、名裁きを披露する趙希舜(ちょうきしゅん)、 命の恩人である希舜の祖父の遺言を守るため希舜に付き従う書生風の容貌と美声の持ち主 傅伯淵(ふはくえん)、 強面で粗暴な外見や腕っぷしとは裏腹に頭の良さや細やかな気遣いも披露して希舜を驚かせる警護役の賈由育(かゆいく)。
身分を隠して全国を行脚する主従3人の活躍を描いた短篇連作ミステリー。
表題作を始め『松籟青の鉢』『石火園の奇貨』『黒竹筒の割符』『白磚塔の幻影』の5編を収録。


人の出入りが多いし舞台が中国ということも手伝ってか少々話が判りにくい部分はあったけど、なかなか面白かった。
この物語の一番の魅力は物語自体よりも、それを引っ張る3人組のキャラクター。
それぞれが個性的で会話もテンポがいいのでどんどん読み進むことが出来た。

仲がいいのか悪いのかよく判らない3人の不思議な関係とそこから生まれる軽快な会話が楽しい。
そしてその微妙なバランスを保ちつつ、それぞれの役割を分担しつつ謎に迫り複雑に絡んだ状況を纏め上げていく過程が面白かった。
(ワタシ的には「書生風でひょろりとしていてそんなに美男ではないけれど、講談師も裸足で逃げ出すほど声がいい」 という伯淵の設定がツボでした(^^))

今回の物語の中で少し触れられた希舜や伯淵の過去、そして由育の隠されたエピソードなども読んでみたいところ。
解説(細谷正充氏)によると今年('05年)春から第二部の掲載が始まったらしいので早くまとまるのを期待したい。

表紙のイラストはちょっと内容のイメージとは違うかな…。


<関連サイト>
「森福都のホームページ」

恩田陸『図書室の海』

  • 2005/07/09(土) 07:03:54

図書室の海
恩田 陸
恩田陸/図書館の海著者初のノン・シリーズ短篇集。
『六番目の小夜子』の番外編である表題作を始め、『春よ、こい』『茶色の小壜』『イサオ・オサリヴァンを捜して』『睡蓮』『ある映画の記憶』 『ピクニックの準備』『国境の南』『オデュッセイア』『ノスタルジア』の全10編を収録。


中には作品としてちゃんとエンドマークが付いている作品もあるけれど、全体的な印象は「断片」という感じ。
別の場所に厳然と存在している核となる物語から派生した様々な形をした「断片」たち。
それだけでは作品全体を見渡すことは出来ないけれど、だからこそ却って作品への興味を引き出すことが出来る魅力を内包している。
巻末で山形浩生氏が「映画の予告編」を引き合いに出して解説を書いていたけど、私も読んでいる間感じていたのはそれだったな。

特に『夜のピクニック』の前夜譚である『ピクニックの準備』はその印象が強かった。
登場人物を効果的に紹介しながら、翌日から始まる日常とはちょっと違う一日の中で何かが起こりそうな<予感>をとても濃厚に感じさせる。
この先に何が起こるのだろう、と興味を抱かずにはいられない印象的な導入部。
こういう、<予感>とか<気配>は強く感じるけど実体がハッキリしない曖昧な作品っていうのも実は結構好き。
ただし、それを成立させて読者にちゃんと読ませることが出来るかどうかは、 その基になる作品の世界観や人物像がどのくらい魅力的できちんと出来上がっているかに左右される。
これだけを短篇として成立させてしまう恩田陸ってやっぱりスゴイと思う。

他には『イサオ・オサリヴァンを捜して』と『オデュッセイア』が印象的だった。
(でもイサオ・オサリヴァンって名前は好きじゃないなあ^^;イサオはいいけど、オサリヴァンとはあまり相性良くないと思う…)

(『夜のピクニック』は映画化が準備されているようだけど、その予告編として『ピクニックの準備』の内容を映像化して流しても面白いんじゃないのかな。
そして、本編ではその予告編に出てきた映像は全く使わない…なんて案はどうでしょう(笑))


<関連サイト>
■映画:「夜のピクニック」公式サイト

沢木耕太郎『シネマと書店とスタジアム』

  • 2005/07/05(火) 08:35:45

シネマと書店とスタジアム
沢木 耕太郎
沢木耕太郎/シネマと書店とスタジアム

内容(「MARC」データベースより)
人生を彩るあまたの楽しみの中で「映画」「読書」「スポーツ観戦」この3つは群を抜いて素晴らしい。『朝日新聞』『スポーツニッポン』 等でのコラム99篇をまとめ刊行。


相変わらず「端正」で、対象にも読者にもきちんと距離を置いた(でも突き放しているわけではない)沢木氏の文章は、 読んでいてとても気持ちが良かった。

ただ、こと「本の感想」に関して言えば、その端正さが少々物足りない部分も。
私とは全く読書傾向が違うというのも大きな原因かも知れないが、 沢木氏の感想は、それ自体が作品として完結してしまっているように思えたのだ。
氏の感想を読んだだけで、その対象の本も読んだような気分になってしまい、その本そのものを「読みたい」と思えるものは私には見つけられなかった。
本と言うのは元々「静」のものであるので、それを語るときは少々暑苦しい(笑)くらいの方が対象への思いが伝わってくるのかも知れない。

反対にスポーツ観戦記については、その冷静さがスポーツの持つ「熱」を上手く逃がしてくれていて、 スポーツが得意ではない私も面白く読むことが出来た。

奈良谷隆『みぶろ』

  • 2005/07/02(土) 08:29:25

みぶろ
奈良谷 隆
奈良谷隆/みぶろ旅芸人の一座に加わり京都にやってきた売れない咄家 珍平と役者見習いの朝太の二人は、 ひょんな成り行きから池田屋事件の直後で隊士を大募集していた新選組に入隊することに。
お互いの掛け合い漫才で客を笑わせることに生き甲斐を感じるようになっていた二人は、 新選組の中でもその話術と雰囲気で周囲を和ませる人気者となっていく。
ただ、彼らのどんな話にも笑わない男が一人だけいた。
それは周囲から「鬼」と恐れられている土方副長だった。


う~ん…。
「人前では決して笑顔を見せない土方をどうにかして笑わせようとする二人の奮闘ぶり…」という紹介文に惹かれて手にとって、 最初の10ページくらいを読んだ時点では「ちょっと面白そうかな?」と思ったんだけど… どうやら錯覚だったみたい^^;

著者によるあとがきを読むと「燃えよ剣」「姿三四郎」「坊ちゃん」が好きで、同じ時代を生きた新選組、西郷四郎(「姿三四郎」 のモデル) 、夏目漱石を一つに繋げた物語が書きたかった、とのこと。
そのためこの物語は第一部「笑わぬ男」(新選組の土方歳三)、第二部「怒らぬ男」(西郷四郎の師 嘉納治五郎)、第三部「泣かぬ男」 (夏目金之助)の三部から成り立っていて、その間を取り持つのが前述の売れない咄家と役者見習い、という構成になっている。

考え方としては面白いと思うけど…お話そのものはつまらなかった。
ただ、なんとな~くその人物や歴史的事実をなぞっているだけ、エピソードとかもただ流れているだけ、って感じなんだなあ。
ひっかかりも深みもない。
多分ページ数と内容のバランスが悪いんだと思う。
何よりも「面白い」はずの珍平と朝太の会話がちっとも面白く聞こえてこないところがどうにも困ってしまった^^;
人物設定とかはちょっとニヤッとしてしまうところもあったので、 もう少しテーマや時間を絞るかページ数が多かったらまた違っていたのかも。
(個人的にはあまり先の時代にまで行かずに、京都での新選組の屯所内の話を丁寧に書いたものが読みたかったな)

また、この内容の作品に「みぶろ」ってタイトルを付けるというのもちょっと違和感アリ。

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